1998年8月20日、満員の甲子園球場。延長15回裏、2対2の同点、2死一、三塁。打席には相手打者、マウンド上には限界を迎えた投手が立っていた。セットポジションに入った直後、球審の手が大きく上がった。「ボーク!」。その瞬間、三塁走者が本塁へ歩を進め、呆然とする守備陣を余目に試合終了が告げられた。
なぜ審判は、あの極限の局面でボークを宣告したのか。検証によって浮かび上がるのは、感情を排した審判員の厳格なルールの遂行である。投手がセットポジションに入った際、完全に静止せず、僅かに体を揺らして投げ出そうとした動きを見逃さなかった。投手の心理状態は、200球近くを投げ抜いたことによる極度の肉体疲労と、「抑えなければならない」という強い焦燥感で飽和していた。意識が途切れかけた一瞬の隙が、無意識のモーションを生み出してしまったのだ。