一般の気象ファンやネット上の言説において、最も頻出する危険な誤解が「中心気圧の数値だけを見て安全性を判断する」という行為だ。
台風情報において「950hPa」と表示されていた数値が、温帯低気圧化に伴って「980hPa」へと上昇すると、多くの人は「数字が上がったから勢力が30hPa分も弱まった」と直感的に錯覚する。しかし、これは致命的な物理の罠である。気圧の絶対値そのものよりも、等圧線の間隔(気圧傾度力)こそが風の強さを決めるからだ。
さらに警戒すべきは、温帯低気圧化に伴う「再発達」の危険性である。上空の強い偏西風の谷(トラフ)と絶妙なタイミングで合流した温帯低気圧は、寒気の吸い込みを一気に加速させ、猛烈な勢いで中心気圧を急降下させることがある。いわゆる「爆弾低気圧(24時間で24hPa×sinφ/sin60°以上気圧が低下する温帯低気圧)」への急変だ。
熱帯低気圧としては死を迎えた低気圧が、冷気という劇薬を飲み干すことで、以前よりもさらに強大なモンスターとして息を吹き返す。この「勢力弱まらない真相」を知らぬまま屋外へ出ることは、自ら嵐の口へ飛び込むに等しい。