火災被害の拡大を分析した消防庁の検証データにおいて、死傷者発生の直接的な要因として最も多く挙げられるのが「煙の上昇気流」です。火災時の煙は垂直方向に毎秒3〜5メートルという猛烈な速度で上昇します。この垂直方向の移動経路となるのが階段、吹抜け、エレベーターシャフト、光水路であり、これを防ぐのが「竪穴区画」の役割です。
竪穴区画において実務者を最も悩ませるのが、開口部に設置する防火設備の遮煙性能です。かつては火炎を遮る「遮炎性能(20分または1時間)」のみが重視されていた時代もありましたが、現行基準では、火災感知器と連動して閉鎖する扉やシャッターに対して、JIS A 1327に基づく遮煙性能が厳格に求められます。現場の自主検査や定期報告において、扉枠の気密パッキンの経年劣化や、シャッターレールの歪みによって煙漏れ基準を満たさず、特定建築物定期調査で「要是正」と判定される事態が日常化しています。
一方、複合ビルにおいてトラブルが多発しているのが「異種用途区画」です。例えば、1階・2階が飲食店や物販店舗で、3階以上が賃貸マンションやホテルとなっている建物が該当します。就寝を伴うホテルや住宅は火災の発見が遅れやすいため、火気使用頻度の高い飲食店エリアとは1時間耐火基準の特定防火設備で完全に縁を切らなければなりません。
テナント工事の現場関係者からは、次のような切実な証言が寄せられています。
「物販店舗だった区画を居酒屋へ用途変更する際、天井裏を確認したら隣の共用廊下との境界壁がスラブ(上階のコンクリート床)まで達しておらず、ジプトーン天井の上で筒抜けになっていた。前の施工業者が内装工事の際に区画壁を壊して配管を通し、そのまま塞いでいた形だ。是正のために天井をすべて解体して耐火ボードを二重張りし直すことになり、数百万円の想定外費用が発生した。」
このように、表面上の図面だけでは把握できない「天井裏の区画破壊」は、居抜き出店やリノベーション事業における致命的な財務リスクとなっています。