戸愚呂弟がなぜ、人間の魂を捨ててまで醜い妖怪へと身を堕としたのか。その真相を紐解くには、約50年前の戸愚呂弟の人間時代の経歴に立ち返る必要があります。
人間時代の彼は、若き日の玄海と共に道場を構え、多くの弟子たちに武術を指南する高潔な武道家でした。玄海とは単なる修行仲間を超え、互いの魂を預け合う深い絆で結ばれていたことが作中でも示唆されています。しかし、その穏やかで充実した日々は、残酷な惨劇によって一瞬で崩壊します。
それが、戸愚呂弟の過去における潰錬(かいれん)の経緯です。突如道場に現れた凶悪な妖怪・潰錬によって、愛する弟子たちは全滅、道場は血の海へと変えられました。当時、弟子たちにとって最強の師匠であったはずの彼は、潰錬の圧倒的な暴力の前に指一本触れることすらできず、命だけを見逃されるという屈辱を味わいます。
その後、暗黒武術会で潰錬を倒して復讐を果たすものの、失われた命が戻ることはありませんでした。彼が妖怪になった理由は、老いによって力が衰え、二度と大切なものを奪われる恐怖に耐えられなかったこと、そして「弟子たちを救えなかった自分」という弱き人間への激しい憎悪に他なりません。暗黒武術会の優勝賞品として「妖怪への転生」を望んだ瞬間、彼は人間としての幸福を自ら永久に放棄したのです。