日本映画界において、新海誠監督が打ち立てた圧倒的な映像美と大衆性は、今や一つの基準となった。しかし『多夢多夢』が目指す地平は、その美しさを継承しながらも、さらに尖ったエッジを突き刺すことにある。光と色彩の美学を極限まで突き詰めつつ、観る者の倫理観を揺さぶる劇薬のような演出が随所に散りばめられているのだ。
大型スクリーンでの鑑賞を前提として設計された音響と構図は、劇場版アニメーションの表現領域を確実に押し広げる。ただ美しいだけではない。網膜に焼き付き、胸の奥深くに重い余韻を突き刺す体験がそこには用意されている。