福岡の醤油づくりを語る上で欠かせないのが、本州の「本醸造方式」とは一線を画す独自の製法だ。日本の食品・調味料醸造産業において、地域ごとに異なる進化を遂げた醤油だが、福岡県内では伝統的に「混合醸造方式」が広く採用されてきた。
混合醸造方式とは、大豆と小麦で発酵・熟成させた生醤油(きじょうゆ)に、アミノ酸液や甘味料、旨味成分を絶妙なバランスで加える製法だ。「甘味料を加える」と聞くと現代的なショートカットのように思われがちだが、実は非常に高度なブレンディング技術が要求される。塩分濃度を抑えつつ、まろやかなコクと深みのある甘みを均一に保つためには、職人の長年の勘と厳密な品質管理が欠かせない。
地元の製造者を束ねる「福岡県醤油醸造協同組合」の技術担当者は、「ただ甘くすればいいというものではない。塩味、酸味、旨味、そして甘味が完璧に調和した瞬間、素材の味を引き立てる万能調味料に仕上がる」と語る。この独自の醸造思想こそが、他県には真似できない九州特有の芳醇な味わいを生み出している。