なぜ、普段は理性的で控えめな人物が、妊娠を機に突然豹変してしまうのか。その原因は、本人の性格やモラルの問題だけではない。女性の身体の中で起こる、ダイナミックな生物学的変化が深く関係している。
妊娠中から出産直後にかけて、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量は通常の数百倍にまで跳ね上がる。さらに、出産を機に「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが大量に分泌される。このオキシトシンは、我が子への強い愛着を形成する一方で、部外者に対する排他性や攻撃性を高める側面も持っている。
この急激なホルモンの乱高下が、脳に一種の「マイルドな躁状態」を引き起こす。一種の全能感に包まれ、自分の幸福が世界の共通言語であるかのように錯覚してしまうのだ。生物学的な防衛本能が、現代社会の人間関係においては裏目に出てしまうという皮肉な構図がここにある。