テクノロジーがどれほど進化し、競技規則の文章が精緻化されようとも、スタジアムのスタンドやSNS上でのファンの反発が消えることはありません。「試合の流れを完全に殺している」「腕を切り落としてプレーしろというのか」――X(旧Twitter)や各種掲示板のトレンドを埋め尽くすハンド判定に対するネットの反応は、しばしば審判団やシステムへの激しいバッシングへと発展します。
報道各社の取材データやJリーグ・欧州主要リーグの試合後会見録を検証すると、選手や現場の指揮官からも切実な声が相次いでいます。ある元日本代表ディフェンダーは、自著や専門番組のインタビューの中で次のように吐露しています。
「至近距離から時速100キロを超えるシュートが飛んでくる現場で、腕を後ろに組んだままステップを踏むのは不可能に近い。一瞬でもバランスを崩せばアジリティは激減する。ビデオのスローで見れば『腕を広げて止めた』ように見えても、現場の体感としては0.1秒の反射であり、完全に身体がボールに反応してしまっただけ。それを静止画で断罪される違和感は、選手全員が常に抱えている」
ファンの違和感の根源は、スタジアムで共有される「ライブの感情体験」と、VARルームで冷徹に進行する「微細な証拠精査」の著しい乖離にあります。豪快なシュートブロックに沸き上がった大歓声が、2分半にも及ぶ長い確認作業の末に冷や水を浴びせられ、逆サイドのPKスポットにボールが置かれるという展開は、フットボールが本来持っていたカタルシスを破壊されたかのような喪失感を観客に与えてしまうのです。