作中終盤、ラピュタの中枢を掌握したムスカ大佐は、飛行石の力を用いて古代兵器の驚異的な破壊力を誇示します。要塞防衛システムを起動し、これまで彼を利用しようとしていたモウロ将軍率いる帝国軍の兵士たちを容赦なく天空から掃討。足場を失った無数の人間が豆粒のように地上へ落下していく凄惨な地獄絵図を前にして、狂気の高笑いとともに言い放たれたのが「見ろ、人がゴミのようだ!」でした。
このセリフの発生源については長年ファンの間でも様々な議論が交わされてきました。一部の漫画・アニメ研究者の間では、手塚治虫氏の名作『三つ目がとおる』の主人公・写楽保介が放つ「人間なんてゴミだ」といったニヒリズム的選民思想や、澁澤龍彦氏の著作に見られる悪魔主義・唯美主義からの着想が指摘されることがあります。しかし、スタジオジブリの制作資料や宮崎駿監督の過去の対談記録を紐解くと、特定の文芸作品からの直接的な盗用ではなく、宮崎駿監督自身が抱く「権力を持った人間が陥る傲慢さと無情さ」の具現化であったことが窺えます。
宮崎監督は絵コンテの段階で、ムスカの冷徹なエリート意識と他者への徹底的な見下しを鮮明に描き出していました。単なる暴力ではなく、圧倒的なテクノロジーを手に入れた人間が他者の命を「物質」としてしか認識できなくなる精神的変容を、極めて簡潔かつ強烈なワンフレーズに凝縮させた結果があの一言だったのです。