実写映画やドラマの現場において、役者がキャスティングに深く関与する事例は稀ですが、戌亥役の決定プロセスは異例の経緯をたどっています。当時のプロデューサーや監督を務めた山口雅俊の証言、さらに映画公開記念の公式トークイベントで明かされた事実によれば、綾野剛を推薦したのは主演の山田孝之本人でした。
二人は2009年公開の映画『クローズZERO II』での初共演を皮切りに、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズなど複数の映像作品でしのぎを削ってきた旧知の仲。私生活でも互いの自宅を行き来し、芝居論を夜通し語り明かす親友同士として知られていました。ウシジマと戌亥という、言葉を多く交わさずとも互いの思考を先回りできる関係性を成立させるためには、「作られた芝居を超えた、本物の呼吸を共有できる役者」が必要不可欠だったと山田は語っています。
オファーを受けた綾野剛は、原作ファンとしての敬意を払いつつも、即座に出演を快諾。「孝之が背負っている重圧を、少しでも現場で分け合いたい」という想いが、戌亥という人物に静かな説得力を宿らせました。単なる仲良しグループの馴れ合いではなく、互いの演技力に全幅の信頼を置いているからこそ成立した、邦画界屈指のキャスティング劇といえます。