先天性耳瘻孔は、胎児期における耳介(外耳)の形成プロセスで生じる先天異常の一種です。母胎内で受精後4〜6週頃、耳を形作る「第1鰓弓(さいきゅう)」と「第2鰓弓」と呼ばれる組織の隆起が複雑に癒合する過程で、一部にわずかな間隙や癒合不全が残ることによって袋状の管(瘻管)が形成されます。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会などの統計データによると、日本人における発症率は約2〜3%とされ、欧米白人の約0.1〜0.9%と比較してアジア人に明確に多く見られる特徴があります。片側だけに発生するケースが約85%を占めますが、両側に認められる場合もあり、この場合は遺伝的な関与がより強く示唆されます。遺伝形式としては不完全優性遺伝(常染色体顕性遺伝)が知られており、親に瘻孔がある場合の遺伝確率は約50%未満と推定されていますが、家族内に全く前例のない孤発例も半数以上を占めます。
瘻孔の開口部は耳輪脚(耳の穴の上前方)に位置することが大半ですが、その奥に広がる管の構造は人それぞれです。直洞状に浅く終わっているものから、木の根のように皮下深部や耳介軟骨、耳下腺近傍まで複雑に分岐して伸びているものまで様々です。そして、この管の内壁は通常の皮膚と同じ重層扁平上皮で覆われており、汗腺や皮脂腺が存在します。
開口部から絞り出される白くドロッとしたペースト状の物質や独特のチーズ腐敗臭は、管の内壁から剥がれ落ちた古い角質(垢)と皮脂が内部に滞留し、常在菌によって分解・酸化されたものです。これが「先天性耳瘻孔の臭いの直接的な原因」であり、穴がある限り分泌物の産生自体を止めることはできません。