「昔は当たり前のようにラジオをつけていれば全試合の実況が流れていたのに、最近は探しても放送枠がない」という疑問を抱くリスナーは少なくありません。この現象の背景には、国際的なスポーツビジネスの変容と、メディアの構造転換が存在します。
最大の要因は、放映権料(放送権料)の世界的な高騰です。動画配信サービス(OTTプラットフォーム)が巨額の資金を投じて独占包括契約を結ぶようになった結果、地上波テレビだけでなくラジオ局にとっても権利取得の費用対効果(ROI)が著しく悪化しました。特に国外で開催されるアウェーゲームの場合、現地中継ブースの設置や回線維持にかかる経費が広告収入を上回ってしまう「逆ざや現象」が生じるため、大手キー局であっても生中継の編成を見送らざるを得ないケースが増えています。
加えて、メディア社会学的な視点からも、リスナーの可処分時間の使い方が細分化したことが挙げられます。かつての「国民的行事」としてのマス中継から、熱狂的なコアファンに向けたサブスクリプション型映像配信へのシフトが進んだことで、ラジオ各局は全方位的な生中継から、厳選された看板カードへの集中投資へと舵を切りました。
しかしながら、この構造変化によってラジオ中継の価値が失われたわけではありません。むしろ「画面を凝視できない環境でも試合展開を把握したい」というドライバーや現場作業者、あるいは「データ消費量を極力抑えてリアルタイム情報を得たい」というユーザー層の間で、音声実況の独自価値が見直されています。