1980年代、長山洋子といえば『ヴィーナス』などの洋楽カバーで一世を風靡したトップアイドルだった。キュートなルックスと軽快なダンスでテレビ番組を賑わせていた彼女が、20代半ばで突如として演歌への転身を宣言した時、周囲の大人は猛反対したという。「なぜ今、わざわざイメチェンするのか」「リスクが高すぎる」。スタッフからの不安の声は絶えなかった。
しかし、彼女の腹は決まっていた。幼少期から父親の影響で民謡に親しみ、その歌唱技術を叩き込まれていた長山にとって、和の心を歌うことこそが自らの原点だったのだ。ポップス歌手としての輝かしいキャリアを一度リセットし、着物を着てマイクを握り直す。その覚悟は、生半可なイメージチェンジではなく、歌手生命をかけた命がけの挑戦だった。