プロの調理技術を体系化してきた辻調理師専門学校の教授陣が説くのは、魚肉タンパク質の凝固温度に対する緻密なコントロールだ。魚のタンパク質は60度を超えると急速に凝固し、80度を超えて加熱し続けると内部の水分が押し出されてパサつきの原因となる。
伝統的な「コトコト長時間煮る」手法は、実は魚の身からジューシーさを奪うリスクを孕んでいた。煮汁の表面張力と対流を計算し、落とし蓋を使って泡の力で魚全体を包み込むように加熱する。短時間で火を通し、余熱と冷却プロセスで味を含ませる調理法は、熱力学と生化学に裏打ちされた極めて合理的なアプローチなのだ。