広大な敷地に足を踏み入れた来訪者が一様に抱く疑問が、「なぜ本業がタイヤ販売・ホイール交換の店舗に、これほど膨大な昭和の自販機が並んでいるのか」という点です。単なる集客目的の奇策や話題作りと受け取られがちですが、その発端は極めて実直な顧客目線にありました。
運営会社である有限会社ラットスタイル代表取締役・斉藤勇一社長の証言によると、すべての始まりは2016年前後に遡ります。タイヤ交換作業はどうしても30分から1時間程度の待ち時間が発生します。郊外の幹線道路沿いという立地もあり、近隣に目立った飲食店が少なかった当時、「待ってくださるお客様に、少しでも温かい食事やお茶を提供して退屈させずに過ごしてもらいたい」と考えたことが最初のきっかけでした。
当初は一般的な飲料自販機を置くだけの構想でしたが、斉藤社長自身が幼少期にドライブインで親しんだ「うどん自販機」の記憶が蘇り、一台のジャンク品を取り寄せて自力でレストア(修復)を試みたことから歯車が大きく動き出します。機械工学への深い理解と情熱を持つ社長は、すでにメーカーの部品供給が終了した昭和40〜50年代のマシンを全国から買い集め、自ら旋盤を回して欠損パーツを削り出し、配線を張り替えて蘇らせていきました。
気づけばうどん・そばだけでなく、トーストサンド、ハンバーガー、瓶ジュース、缶詰、菓子、さらには昭和のおみくじやレトロゲーム機に至るまでコレクションは拡大。タイヤ交換を待つドライバーのためのささやかなサービスは、いつしか日本中から愛好家が押し寄せるレトロ自販機の聖地へと変貌を遂げたのです。