「今夜は本物のスパイスを味わいたい」と思い立ったとき、迷わず足を運ぶべき店はどう見分ければいいのか。日本の外食産業におけるインド料理の現在地を調査すると、驚くべき地殻変動が見えてくる。かつて主流だった最大公約数的な味付けから脱却し、現地のシェフが自らのルーツを誇示するような「本気の郷土料理」を掲げる店が急増しているのだ。
ニューヨークの星付きレストランでインド料理を世界最高峰のガストロノミーへと押し上げたスターシェフ、ヴィカス・カンナは「スパイスとは調味料ではなく、土地の記憶そのものである」と語る。近場にある隠れた名店を見分ける第一の手がかりは、メニューの解像度にある。単に「チキンカレー」と書くのではなく、チェティナード風なのか、パンジャブ風なのか、調理法とスパイスの組み立てを明確に誇示している店は、シェフの矜持が宿る証拠だ。厨房から漂うホールのクミンやシナモンの香りが酸化していないこと、そして油分のキレが良いこと。これこそが、食後に胃もたれせず深い満足感だけを残す名店の条件である。