戦前の新興キネマから映画界入りし、大映を経て東映へと移籍した近衛十四郎は、数多くの時代劇映画で主演・助演を務め、確固たる地位を築き上げました。その長いキャリアの中でも、彼の代名詞として燦然と輝く代表作が映画『柳生武芸帳』シリーズ(東映)における柳生十兵衛役です。
トレードマークである黒革の眼帯を装着し、二刀流を駆使して敵を薙ぎ倒す柳生十兵衛のビジュアルと立ち回りは、近衛によって決定版として完成されました。後年に多くの名優が十兵衛役に挑みましたが、近衛が見せた重厚な哀愁と野獣のような鋭さを兼ね備えた造形は、現在に至るまで最高傑作の呼び声高く語り継がれています。
1960年代後半に入ると活動の主軸をテレビ時代劇へと移し、NET(現・テレビ朝日)系列で放送された『素浪人 月影兵庫』および続編の『素浪人 花山大吉』で爆発的な国民的人気を獲得します。酒とオカラが大好物で普段は飄々としていながら、いざ抜刀すれば無敵の強さを誇る主人公と、品川隆二演じる相棒「焼津の半次」とのコミカルな掛け合いは、時代劇の新たなフォーマットを切り拓きました。映画で培った至高の殺陣と、大衆を惹きつけるユーモアの融合こそが、近衛十四郎の役者としての深みを示しています。