茎突舌骨筋の立体的な位置関係を把握するには、まず頭蓋底から頸部へと視線を移す必要があります。起始部は側頭骨の下面から前下方に向かって針のように鋭く突き出す茎状突起の基部後面です。そこから筋腹は前下膜方向へと斜めに走り、舌骨体の外側部および大角との結合部に停止します。
解剖実習室でメスを進めると、この筋肉が頸部の極めて戦略的な位置を占めていることが実感できます。臨床解剖学の研究者が自著や実習手記で「薄く細長い紡錘状の筋束でありながら、舌骨の挙上角度を決定づけるアンカー(錨)のように機能している」と描写するように、その物理的配置は実に合理的です。
茎突舌骨筋の主たる作用は、舌骨の後上方への引き上げ(挙上および後方牽引)です。これが嚥下機能において決定的な意味を持ちます。食物塊を口腔から咽頭、食道へと送り込む嚥下反射の瞬間、舌骨は単に真上に持ち上がるのではなく、前上方および後上方へと多角的に牽引されます。前上方への牽引は顎舌骨筋やオトガイ舌骨筋が担いますが、茎突舌骨筋が顎二腹筋後腹とともに後上方から強いテンションをかけることで、舌根部が後方へ押し込まれ、喉頭蓋が反転して気道を遮断します。この協調運動が破綻すると、食塊の咽頭残留や誤嚥のリスクが跳ね上がることになります。