旧三笠ホテルを訪れる際、絶対に見逃せないのが外観と内装に散りばめられた意匠の妙です。外観は、アメリカのヴィクトリアン様式である「スティックスタイル(木骨様式)」を取り入れ、外壁の柱や梁を意図的に露出させる幾何学的なデザインが特徴です。中央にそびえる八角形の塔屋と、屋根のドーマー窓が美しいシンメトリーを形成しています。
館内に足を踏み入れると、明治の職人たちの執念とも言える精緻な仕事が迎えてくれます。
- 寄木張りの床面:ロビーや客室の床には、幾何学模様を組み合わせた美しい寄木張り(寄木細工)が施されています。歩くたびに微かに鳴る木の温もりが、当時の優雅な空気を呼び覚まします。
- アール・ヌーヴォー調の照明器具:当時最先端であった電灯照明には、植物の有機的な曲線をあしらったアール・ヌーヴォー風の真鍮製シャンデリアやブラケットが採用されています。
- 英国製タイルと猫足バスタブ:特別室や浴室には、イギリスから直輸入された装飾タイルや優美な猫足のバスタブが据え付けられ、当時の最高級ホスピタリティを証明しています。
- カーテンボックスと透かし彫り:窓枠や階段手すり、欄間部分には、日本の伝統的な組子や透かし彫りの技法が西洋のオーナメントと融合した独特のディテールが宿っています。
これらすべてが、外国人の指導を直接受けることなく、日本人棟梁・小林代造と地元の腕利き大工たちが写真や図面を頼りに手探りで創り上げたという事実は、日本の近代建築史における奇跡と言っても過言ではありません。