門をくぐり坂道を登ると視界に飛び込んでくるのが、17世紀初頭の英国ジャコビアン様式を基調に、ルネサンスやイスラム風の意匠を重層的に織り交ぜた木造2階建ての洋館です。設計を担当したジョサイア・コンドルは、鹿鳴館やニコライ堂を手がけたことでも知られますが、この旧岩崎邸洋館は彼の私邸建築における最高傑作の一つと評されています。
邸内に足を踏み入れると、まず目を奪われるのが贅沢を極めた内装です。特に2階の客室や書斎に見られる金唐革紙(きんからかわし)の壁紙は、世界中を探しても現存例が極めて少ない至宝。和紙に金属箔(錫箔・金箔)を貼り、木版に彫られた微細な文様をプレスして立体的な凹凸を出し、漆や塗料で着色して革のような質感に仕上げた工芸品です。
当時の三菱財閥が投じた資金力は現代の貨幣価値に換算すると数百億円規模とも推計され、私的な迎賓館としての機能を果たすために一切の妥協を排して設えられました。南側のベランダには、1階にトスカナ式、2階にイオニア式の列柱が美しく並び、英国貴族の邸宅をも凌駕する威厳を漂わせています。