作品を開いた瞬間、多くの読者を襲うのは逃げ場のない恐怖だ。原爆投下直後の広島を描いた場面では、目を疑うような地獄絵図が容赦なく提示される。顔や手足の皮ふが剥がれて幽霊のように彷徨う人々、崩れ落ちた家屋の下で生きたまま焼き殺される家族。その圧倒的な描写力が、読者のトラウマ体験として語られる最大の要因である。
だが、この恐怖は著者の単なる虚構や誇張ではない。広島平和記念資料館に展示されている当時の写真や被爆者の遺品、絵画資料と比較しても、作中の描写は歴史的事実に基づいていることがわかる。フィクションの形を取りながらも、そこに描かれているのは核兵器が人間にもたらす現実そのものであった。