『崖の上のポニョ』には、CGを一切使わず全て鉛筆と絵の具による手描きにこだわった背景がある。約17万枚ものセル画が費やされた画面からは、手仕事ならではの圧倒的な生命力が溢れ出している。宮崎駿監督は、複雑化した現代社会に対するアンチテーゼとして、幼少期の無垢な感情と圧倒的な自然の猛威をダイレクトにぶつけ合おうと試みた。
また、北欧神話やリヒャルト・ワーグナーのオペラ『ワルキューレ』に登場する長女ブリュンヒルデがポニョの本名であるという設定も味わい深い。神の意に背き、愛のために人間となる道を選んだ女神の物語が、現代の海辺の町を舞台に見事な変奏曲として再構築されているのだ。こうした緻密な古典へのオマージュが、子供だけでなく大人の鑑賞にも耐えうる重厚さを作品に与えている。