激動の1960年代から70年代、若い頃の加藤登紀子さんは、知的な美貌と圧倒的な歌唱力、そして既存の女性像に囚われない毅然とした佇まいで、同世代の若者たちからカリスマ的な支持を集めていました。当時の写真やレコードジャケットを見ても、その凛とした眼差しには強い意志が宿っています。
彼女の代表曲の一つであり、スタジオジブリ映画『紅の豚』(1992年公開、宮崎駿監督)のエンディングテーマとしても世界的に知られる『時には昔の話を』は、まさにあの学生運動の時代を共に駆け抜け、散っていった仲間たちへのレクイエム(鎮魂歌)として書かれた名曲です。
「あの日の情熱は何だったのか」「見果てぬ夢を追いかけた仲間たちは今どこへ行ったのか」――。武装闘争の果てに自滅していった過激派の若者たちも含め、時代の熱病に浮かされ、傷つき、散り散りになっていった者たちを断罪するのではなく、深い哀惜と慈しみを持って包み込むこの楽曲は、加藤登紀子さんだからこそ生み出せた昭和史の結晶と言えます。