1981年3月21日、日本の音楽シーンの潮目を大きく変えることとなった大滝詠一のアルバム『A LONG VACATION』。その幕開けを飾るリードシングルとして同時発売されたのが『君は天然色』でした。1980年代の幕開けとともに訪れた都会的で洗練されたシティポップブームの原点ともいえる作品ですが、制作の現場は順風満帆とは程遠い、過酷な悲劇からスタートしています。
当時、大滝詠一から新曲の作詞を依頼されていた作詞家の松本隆は、突如として人生最大の悲劇に見舞われます。かねてより心臓を患っていた最愛の実妹が、わずか20代半ばの若さで急逝してしまったのです。あまりのショックに打ちひしがれた松本は、ペンを握ることすらできなくなり、すべての仕事を投げ出してしまうほどの深い絶望の淵に突き落とされました。
この危機に際し、大滝詠一が下した決断が音楽史における伝説的な友情物語を生み出します。レコード会社からの強いプレッシャーを受けながらも、大滝は「松本以外の詞で歌うつもりはない」と頑なに言い放ち、アルバム制作のスケジュールを約半年間完全に凍結させて松本の心の回復を待ち続けたのです。この大滝の揺るぎない信頼と忍耐が、後に奇跡の詞を生み出す原動力となりました。