三毛猫全般に共通する最大の謎が、「なぜオスがほとんど生まれないのか」という点です。キジ三毛の遺伝の仕組みを理解するには、猫の毛色を決定する性染色体(X染色体)の働きを知る必要があります。
猫の毛色において、赤(オレンジ・茶)を発色させる「O遺伝子(Orange)」はX染色体上にのみ存在します。通常のメス猫は染色体が「XX」、オス猫は「XY」です。黒(キジトラのベース色)と赤の両方を同時に発現させるためには、2本のX染色体(一方がO、もう一方が非Oであるo)が不可欠となります。そのため、X染色体を1本しか持たない通常のオス(XY)は、黒系か赤系のどちらか一方しか毛色に持つことができず、三毛猫のオスが珍しい理由はここにあります。
オスのキジ三毛が誕生するケースは、染色体の分配異常によって「XXY」という核型を持つクラインフェルター症候群の猫である場合や、異なる受精卵が融合したモザイク・キメラ個体など、極めて特殊な遺伝現象に限られます。獣医学的な統計データによると、キジ三毛のオスの出現確率は約3万分の1(0.003%程度)とされ、古来より「幸運を呼ぶ守り神」として珍重されてきた背景には、こうした遺伝学的な必然性があります。