丸山ワクチンの本質を理解する鍵は、その作用機序の独自性にある。従来の殺細胞性抗がん剤は、腫瘍細胞そのものを毒性によって死滅させようとする。その過程で正常な細胞も巻き添えを食い、激しい骨髄抑制や脱毛、倦怠感を引き起こすのが常だった。対照的に、丸山教授が着目したのは「宿主(人間側)の抵抗力を高め、がんを周囲から包み込む」ことだった。
主成分は、結核菌(ヒト型青山B株)から抽出された多糖体「リポアラビノマンナン」などだ。これを皮下に微量投与することで、体内の線維芽細胞が刺激され、がん病巣の周囲に強固なコラーゲン線維の被膜が形成される。いわば、がん細胞に兵糧攻めを仕掛け、物理的なカプセルの中に閉じ込めてしまう手法である。腫瘍が縮小しなくても、転移や増殖が抑えられ、宿主の寿命が尽きるまで静かに共存できればよいという発想だ。
さらに近年では、自然免疫の中心的担い手である樹状細胞やマクロファージを適度に刺激し、過剰な炎症を引き起こすことなく抗腫瘍免疫を維持するアジュバント作用も報告されている。劇的な完全寛解を狙うのではなく、体力の消耗を防ぎながら腫瘍の暴走を食い止める。その穏やかなアプローチは、極端な延命と引き換えに生活の質を損なってきた近代的がん治療への、根本的なアンチテーゼでもあった。