ノーベル文学賞作家ジョン・スタインベックが1945年に発表した小説『缶詰横丁』は、アメリカ文学の歴史において極めて特異な輝きを放ち続けている。代表作『怒りの葡萄』に見られる激しい社会告発とは対照的に、本作に満ちているのは、社会の片隅に追いやられた人間たちへの限りない慈愛とユーモアだ。
物語の軸となる海洋生物学者ドクのモデルは、スタインベックの無二の親友であった実在の研究者エド・リケッツである。ホームレス同然の男たちや売春宿の女性たちが織りなす破天荒な日常は、単なる美談ではない。スタインベックは、生と死、栄華と衰退が背中合わせにある過酷な現実を、冷徹かつ詩情豊かな筆致で描き出した。