英語の形容詞である「liminal」は、日本語で「境界の」「閾(しきい)の」「過渡期の」と訳されます。liminalの語源をたどると、敷居や境界線を意味するラテン語「limen(リーメン)」に行き着きます。心理学において意識と無意識の境目を「閾値(いきち)」と呼ぶように、ある状態から別の状態へと移り変わる狭間の領域を指す言葉です。
文化人類学の世界では、フランスの人類学者アルノルト・ファン・ヘネップやイギリスのヴィクター・ターナーが提唱した「リミナリティ(境界状態 / 閾状態)」という学術用語として広く知られてきました。通過儀礼(イニシエーション)において、従来の社会的身分を離脱し、新たな役割を獲得するまでの「宙ぶらりんの移行期間」を指します。境界状態の心理学や人類学の文脈では、日常の秩序やルールが一時的に失われ、混沌と再構築が同居する特別なフェーズとして位置づけられています。
現在ウェブカルチャーで使われるリミナルスペースの意味は、この学術的ニュアンスを空間表現に応用したものです。目的地と目的地をつなぐ「通路」「階段」「空港の待合室」のように、一時的に通り過ぎるためだけに設計された場所が、本来の文脈を失って静止している情景を指しています。