死の直前に自分の半生が映画のフィルムのように高速で再生される走馬灯現象が起きる原因についても、記憶と感情を司る神経ネットワークの視点から解明が進んでいます。
生命が絶対的な危機に瀕した瞬間、脳幹の青斑核からノルアドレナリンが大量に放出され、扁桃体と海馬が極限状態のアラートを発します。これは進化医学的に見れば、「過去のあらゆる記憶データベースを総検索し、現在の致死的危機から脱出するための生存解を探し出そうとする防衛反応」です。普段は前頭前野が強固なブレーキをかけて必要な記憶だけを順序立てて引き出していますが、低酸素化によってこの抑制系が破綻すると、海馬に保管されていた長期記憶が制御を失って一気に解き放たれます。
終末期医療の先駆者である精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは名著『死ぬ瞬間』において、死にゆく患者たちが自らの人生を振り返り、未完了の感情や関係性を統合していく心理プロセスを記録しました。走馬灯現象は、脳の生存反射であると同時に、不可逆的な死を受け入れる直前に人間が無意識下で行う「人生の認知的総括」としての側面も帯びています。