鈴木の真骨頂は、誰もが「無謀だ」と決めつける事業にこそあった。その最たる例が、異例の金融参入となったセブン銀行設立プロジェクトである。小売業が銀行免許を取得し、街中の店舗にATMを並べるという構想に対し、金融界はもちろん社内役員からも「本業を揺るがす大ばくち」と猛反対の声が上がった。
だが鈴木の目は、銀行という業界の論理ではなく、手数料を払ってでも手近な場所で現金を下ろしたいという生活者の切実な不便さに向けられていた。結果として誕生したセブン銀行は、年中無休で稼働する高収益インフラへと変貌し、グループの収益を支える強固な柱となった。
後年手がけたセブンカフェプロジェクトも同様だ。専門店の本格的なドリップコーヒーを100円で提供するという挑戦は、既存の流通機器メーカーの常識を超えた専用マシンの独自開発を伴う茨の道だった。妥協を許さない鈴木のテイスティングと徹底したオペレーションの簡素化が、累計数十億杯を売り上げる国民的メガヒットを生み出したのである。