地下鉄七隈線の延伸以降、薬院大通駅周辺の人の流れはさらに濃密になった。駅から徒歩数分のエリアに立ち並ぶのは、独自の美学を貫くスパイスカレーの専門店と、手打ちパスタに心血を注ぐイタリア料理店だ。薬院のカレーは単なる激辛料理ではない。カルダモンやクミンのホールスパイスを油でテンパリングするタイミング、スリランカや南インドの手法に和出汁を掛け合わせた重層的な旨味構造は、もはや独自の学問に近い。
数歩歩けば、今度は薪窯から漂う香ばしい小麦の香りに引き寄せられる。イタリア料理の名手たちが競い合うこの界隈では、手打ちのタリオリーニや季節のジビエを用いたラグーソースが、昼のひとときを劇的に彩る。素材の鮮度とダイナミックな火入れが生み出す一皿は、日常の慌ただしさを瞬時に忘れさせるほどの説得力を持つ。