炉端焼きを象徴する最大の見どころといえば、焼き上がった料理を巨大な木べらに乗せ、カウンターの客へ差し出すダイナミックな提供シーンです。この大きなへらは「掘返べら(ほりかえしべら)」、あるいは船のオールに似ていることから「櫂(かい)」と呼ばれます。
一見すると現代のインスタ映えを狙ったようなパフォーマンスに見えますが、これには極めて理にかなった実用的な理由が存在します。
炉端焼きのカウンターは、客席と焼き手の間に大量の食材が並ぶ段差や、熱を発し続ける巨大な囲炉裏が配置されています。通常の居酒屋のように手を伸ばして小皿を手渡ししようとすると、焼き手は熱い炭火に身を乗り出さねばならず、火傷のリスクがあるばかりか、カウンターの奥行き(幅1〜1.5メートル以上)を越えて料理を安全に届けることが物理的に困難でした。
そこで、船の櫂や農具のへらに着想を得て、「長いへらの先端に皿を載せて差し出す」という運搬手法が考案されました。熱気から料理人の身を守りつつ、広大なカウンターの向こう側に座る客へ安全かつ確実に料理を届けるための現場の知恵から生まれた合理的な発明だったのです。
これが時代を経て「料理が宙を渡ってくる驚きの演出」として昇華され、店員と客の間の「いただきます」「熱いのでお気をつけて」という温かなコミュニケーションを生み出す舞台装置として欠かせない文化になりました。