エッフェル塔の支柱は、地上付近では約60度の鋭い傾斜を描き、上昇するにつれて垂直に近づく。1889年の建設当時、この幾何学的な難問に挑んだのが天才技師ギュスターヴ・エッフェルだった。通常の垂直昇降機は使えない。そこで塔の東脚と西脚に導入されたのが、水圧を利用した巨大な油圧シリンダー駆動の斜行エレベーターだった。
現代の昇降機産業の巨人であるオーチス・エレベータ・カンパニーの創始者、エリシャ・オーチスが確立した安全機構の思想は、この塔の設計にも色濃く受け継がれている。現在も地下機械室では、100年以上前に設計された水圧シリンダーと巨大なカウンターウェイトが、重力と対話するように油圧ピストンを押し出し続けている。
金属同士が擦れ合うかすかな軋み、巨大な滑車が巻き取る太いワイヤー、足元から遠ざかるパリの街並み。エレベーターのケージ越しに見る無数のリベットとトラス構造は、産業革命の息吹を今に伝えるタイムカプセルそのものだ。