激しい腹痛に悶絶しながらも排便に至らないとき、体内では一体何が起きているのでしょうか。この病態を紐解く鍵は、大腸の運動メカニズムと神経伝達の不協和音にあります。
まず疑うべきは、便意はあるのに出ない原因として臨床現場で頻繁に確認される「直腸性便秘」と「痙攣性便秘」の混在です。通常、便が直腸に到達すると神経を介して脳にシグナルが送られ、排便反射が起こります。しかし、多忙や羞恥心から便意を繰り返し我慢していると直腸のセンサーが麻痺し、直腸内に留まった便から水分が過剰に奪われて石のように硬化します。これが直腸性便秘です。出口に巨大なコルク栓がされた状態となるため、いくらいきんでも便は通過できません。
一方、精神的緊張や過労、環境変化が引き金となって自律神経のバランスが乱れると、腸管が異常に痙攣して細く収縮してしまいます。これが痙攣性便秘であり、過敏性腸症候群(IBS)便秘型にも多く見られます。腸管が過剰に狭窄するため便が分断されてコロコロとした形状になり、無理に進もうとする腸の蠕動運動そのものが鋭い差し込み痛を引き起こします。
さらに見逃せないのが、ガスが溜まってお腹が痛いという現象です。便が通過障害を起こすと腸内細菌の発酵によってメタンや水素などのガスが大量発生し、腸管内圧が急上昇します。行き場を失ったガスが腸壁の痛覚神経を強く刺激し、まるで下腹部を内側から刃物で突き上げられるような疝痛(せんつう)をもたらすのです。
ここで多くの人が「薬を飲んで出そう」と焦りますが、便秘薬が効かない時の理由もまさにこの構造にあります。市販されている便秘薬の大半を占める「刺激性下剤(センナや大黄、ピコスルファートなど)」は、大腸の粘膜を刺激して強制的に蠕動運動を起こさせる薬剤です。すでに出口が硬便で塞がれている、あるいは痙攣によって腸が狭窄している状態のところに刺激性下剤を投入すると、出口が閉ざされたまま上流の腸管だけが激しく収縮するため、激烈な腹痛を招くだけで排便には結びつきません。それどころか腸管の内圧が限界に達し、深刻な事態へと悪化する危険すら孕んでいます。