読者の誰もが抱く最大の疑問――それは「なぜ夢野幻太郎は、人を煙に巻く嘘をつき続けるのか」という点です。その答えは、彼が背負ってきた壮絶な過去と、中王区を取り巻く社会の暗部に直結しています。
幻太郎は幼少期、身寄りのない子どもが集まる養護施設で育ちました。そこで出会ったのが、後に彼の運命を大きく変えることになる「本物の親友」でした。二人は兄弟以上の深い絆で結ばれ、親友は作家になる夢を抱いて執筆活動に打ち込んでいました。
しかし、政権を掌握した言の葉党・中王区の冷酷な謀略に巻き込まれた親友は、激しい精神的圧迫と理不尽な搾取の末に絶望し、飛び降り自殺を図ってしまいます。一命は取り留めたものの、親友は長い昏睡状態に陥り、病院のベッドから起き上がることができなくなりました。
この凄惨な現実に直面した幻太郎は、ある悲痛な決意を固めます。「友が目を覚ましたとき、彼の夢も、彼の名前も、世界から忘れ去られていてはならない」。幻太郎は自らの名前と過去を捨て、昏睡状態にある親友の筆名「夢野幻太郎」を名乗り、作家として活動を始めたのです。
1stソロ曲『シナリオライアー』において、彼は自らの過酷な身の上を語り尽くした直後、「――ま、全部嘘なんだけどね」と歌い終えます。真実を語りながらそれを嘘だと偽り、嘘の中に真実を滑り込ませる。この幾重にも重なった倒錯こそが、彼が過酷すぎる現実から己の精神を守るための防衛機制であり、同時に「親友の存在をこの世界に繋ぎ止めるための命懸けのフィクション」だったのです。