午前7時を過ぎると、買い出しのプロに混じって、キャリーケースを引いた外国人観光客や、早朝営業の海鮮丼を目当てにした若者たちが通路を満たし始める。近年、市場内の食堂や立ち食い寿司店はSNSで爆発的な人気を博しており、朝から長蛇の列ができることも珍しくない。
この状況を、市場の古参たちは複雑な眼差しで見つめている。
「観光客が来て金を落としてくれるのはありがたい。賑わいがない市場は死ぬからね。だけど、ターレットが通る通路の真ん中で自撮りをされたり、売り物の魚を素手で触られたりするのは勘弁してほしい。ここはアミューズメントパークじゃなくて、命を預かる現場なんだ」
ある乾物商の店主は苦笑いを浮かべる。生き残りのための観光誘致と、仕込み場としての純度。そのバランスシートは、今まさに現場で働く一人ひとりの妥協と矜持の狭間で揺れ動いている。