岸部一徳のキャリアを語る上で欠かせないのが、伝説のグループ・サウンズ「ザ・タイガース」での活動だ。「サリー」の愛称で親しまれ、リズムの要であるベーシストとして一世を風靡した若き日々。熱狂の渦の中心にいながらも、どこか客観的に全体を見つめる冷静さは、当時から際立っていた。
音楽活動から俳優へと転身を遂げた後、彼は東映作品をはじめとする映画界で頭角を現していく。数々のサスペンス映画や実録ヤクザ映画において、凶暴なアウトローから狡猾なインテリまでを自在に演じ分け、映画関係者の間でその演技力は瞬く間に知れ渡ることとなった。
バンドで培ったリズム感やグルーヴは、芝居の間合いや台詞のトーンコントロールへと見事に昇華された。派手なアクションに頼らずとも、ただそこに佇むだけで漂うアウトローの哀愁と凄気は、東映映画黄金期を支えた名匠たちの心を強く捉えたのである。