加藤嘉は1913年(大正2年)1月12日、東京府(現在の東京都)に生まれました。成蹊高等学校(旧制)を経て演劇の世界に足を踏み入れ、築地小劇場系の劇団や前進座の創立に参加するなど、日本近代演劇の草創期から泥臭くリアリズムを追求した生粋の舞台人としての経歴を持っています。
戦前から戦後にかけて文学座や俳優座など名門劇団を渡り歩き、映画界へ本格進出を果たした後は、清貧な農夫、社会の底辺で生きる老人、冷徹な権力者、あるいは狂気を孕んだ犯罪者まで、あらゆる役柄を変幻自在に演じ分けました。美男子が重宝された時代にあって、決して主役然とした容姿ではないものの、一度見たら忘れられない強烈な存在感を武器に映画界での地位を不動のものにしていきます。
加藤嘉の演技の真骨頂は「役になりきる」を超え、その人物が背負ってきた人生の重みごと画面に定着させる点にありました。セリフがなくとも背中ひとつで過酷な境遇を物語る表現力は、監督たちから絶大な信頼を寄せられる要因となったのです。