物語の結末で、アシタカは「私はタタラ場で暮らそう。共に生きよう。会いに行くよ、ヤックルに乗って」とサンに告げます。このラストシーンを受け、多くの観客が「2人は結婚したのか」「結ばれたのか」という疑問を抱き続けてきました。
宮崎駿監督が公式書籍や当時の制作インタビューで語った証言によると、2人は「決して一つ屋根の下で暮らすような一般的な夫婦にはならない」とされています。サンは人間を完全に許すことはできず森の神として生き、アシタカはタタラ場の人間たちと共に新たな村の再建に関わりながら、定期的に森を訪れてサンと交流を続けるという関係性です。
互いのアイデンティティと生きる世界を尊重し、無理に同化させない「自立した共生」こそが、監督の意図した結末でした。現代の家族社会学における「心理的バウンダリー(境界線)」を保ったパートナーシップの先駆的なモデルとしても、この結末は極めて今日的な示唆を含んでいます。
【真相解明】カヤが渡した「黒曜石の小刀」をサンに贈った理由
ファンの間で長年「アシタカはカヤの気持ちを踏みにじったのではないか」と議論されるのが、許嫁であるカヤから託された「黒曜石の小刀」をサンに手渡すシーンです。
エミシの村において、女性が男性に黒曜石の小刀を贈る行為は「生涯の契り」や「命を捧げる誓い」を意味する神聖な儀礼でした。アシタカはその重みを知りながら、瀕死のサンを救い、森の神々との架け橋となるための「自身の命と同等の証」としてサンに手渡しました。
当時の絵コンテや解説資料によれば、これはカヤへの裏切りではなく、「故郷を捨て、死に場所を求めて旅立ったアシタカが、自らの魂そのものをサンに託した決意の表れ」と解釈されています。呪いによって過去の生を断ち切られたアシタカにとって、小刀は未練の対象ではなく、新たな生を繋ぐための究極の選択だったのです。