日本のパン文化発祥の地とも称される木村屋總本店。その原点は、旧士族であった木村安兵衛とその妻・イヨ、次男の英三郎が明治初期に東京・芝で立ち上げたベーカリーにあります。当時、日本人にとって馴染みの薄かった西洋のイースト菌によるパンは、独特の酸味や食感から広く定着するには至りませんでした。
そこで安兵衛らが着目したのが、日本の伝統的な日本酒造りに用いられる「酒種(酒粕ではなく米・米麹・水で起こす発酵種)」でした。試行錯誤の末、明治7年(1874年)に完成した「酒種あんぱん」は、日本人の味覚に馴染む米由来の甘い吟醸香と、しっとりとした薄皮の生地で一世を風靡します。翌明治8年4月4日には、向島のお花見の席で明治天皇へ「酒種桜あんぱん」が献上され、宮内省御用達の栄誉に浴しました。
2026年の現在においても、銀座本店地下の製パン工房では、創業当時から受け継がれる酒種酵母の種継ぎが毎日職人の手によって行われています。自然発酵のため温度や湿度の影響を受けやすく、完成までに約11日もの時間を要する酵母管理こそが、他店には決して真似できない木村屋本店あんぱんの深いコクを生み出す核心となっています。