大森隆志の脱退を語る際、避けて通れないのがフロントマン桑田佳祐との関係性です。二人の歴史はサザン結成以前、青山学院大学の音楽サークル「AFT(ベターデイズ)」時代に遡ります。当時、すでに卓越したセンスを見せていた桑田に対し、熱烈にアプローチして本格的なバンド結成へと背中を押した中心人物こそが大森隆志でした。サザンオールスターズの母体を作り上げた影の功労者といっても過言ではありません。
それゆえに、ネット上で語られがちな「単なる個人的な犬猿の仲」という不仲説は、物事の本質を捉え損ねています。二人の間に生じた亀裂は、感情的な罵り合いではなく、圧倒的クリエイターとプレイヤーの間に生じる不可避な心理的バウンダリー(境界線)の崩壊に起因しています。
桑田佳祐という並外れた音楽的才能は、バンドの商業的成功を約束する一方で、他のメンバーに対して常に「桑田のビジョンをいかに具現化するか」という従属性を突きつけます。長年連れ添ったオリジナルメンバーであればあるほど、「かつては対等にセッションしていた仲間」という意識と、「プロデューサーと雇われギタリスト」のような現実の力関係とのギャップに、耐えがたいアイデンティティクライシス(自己同一性の喪失)を抱えることになります。
【プロの結論】巨大組織におけるクリエイティブ格差と自立の心理学
社会学や組織心理学の観点から見れば、ロックバンドの長寿化と巨大化は、メンバー間のクリエイティブ格差による「共依存と疎外感」のジレンマを必然的に生み出します。初期は全員で車に機材を詰め込んで走っていた仲間が、やがて数百人規模のスタッフを抱える巨大エンターテインメント企業体へと変貌していく過程で、主導権を握るトップとそれ以外のメンバーの間には見えない壁が生まれます。
大森隆志にとって、サザンオールスターズからの脱退は、巨大な看板に守られた安泰なキャリアを捨ててでも、「自分自身の音を取り戻すための痛切な自己防衛」であったと解釈できます。妥協してバンドに留まり続けるよりも、表現者としての尊厳を守るためにあえて荒野へ踏み出した決断そのものは、音楽家の生き様として極めて純粋な動機に根ざしていたといえるでしょう。