京都の老舗料亭「菊乃井」の主人であり、和食のユネスコ無形文化遺産登録にも尽力した巨匠・村田吉弘氏は、卵焼きにおける出汁と甘みの関係性について興味深い論考を重ねている。出汁を限界まで含ませた出汁巻き卵は、噛んだ瞬間に溢れ出る旨味が真骨頂だが、砂糖を少量加えることで旨味の輪郭がより鮮明になる場合もあるという。
プロの世界では、出汁の引くタイミングと卵液の温度管理、そして銅製の専用鍋を均一に熱する技術が求められる。家庭のフライパンで再現する場合でも、砂糖や塩の配合バランスひとつで仕上がりの風味が劇的に変化する。
近年、急成長を遂げる外食・中食産業でも、こうした伝統的な職人技の解析が進んでいる。デパ地下の惣菜店やコンビニの高級弁当ラインでは、料亭監修の甘旨い厚焼き玉子がヒット商品となっており、外食と家庭の味覚の相互作用が新たな食トレンドを生み出している。