神尾駅を象徴する信楽焼のたぬき像。一見すると奇妙なアート空間にも映るこの光景の背景には、駅と鉄路を守り抜いてきた関係者の切実な祈りと災害復旧のドラマが刻まれています。
発端は2003年(平成15年)8月に発生した大規模な土砂崩れでした。台風の影響で神尾駅構内裏手の山腹が激しく崩落し、線路や駅施設が土砂に埋没。大井川本線は長期の不通を余儀なくされました。懸命な復旧工事によって運行再開に漕ぎ着けた際、当時の鉄道関係者や地元有志が「二度とこのような土砂災害が起きないように」「事故なく安全に列車が走り続けるように」と願いを込め、縁起物である信楽焼のたぬきを設置したのが始まりです。
なぜ「たぬき」だったのかといえば、商売繁盛や開運で知られる「他を抜く(たぬき)」の縁起担ぎに加え、古くから山深い神尾の地に生息していた野生動物への親しみ、そして災難を跳ね除ける守り神としての期待が込められていました。当初は数体だったたぬきは、駅を訪れるファンや地域住民からの寄贈、鉄道関係者の思いが重なるにつれて数を増やし、現在ではホームや斜面に約100体以上が整然と並ぶ「たぬき駅」として定着しています。