「四川」の看板メニューといえば、間違いなく陳麻婆豆腐だ。黒く艶やかな辣油の海に、大ぶりにカットされた木綿豆腐とたっぷりの挽肉、そして仕上げに振りかけられたフレッシュな花椒。一見すると恐ろしいほどの辛さを想像させるが、蓮華ですくって口に運ぶと、その印象は鮮やかに裏切られる。
口に入れた瞬間に広がるのは、挽肉の芳醇な旨味と熟成された豆板醤の深いコク。直後に強烈な痺れが押し寄せるものの、角のない上品な後味が追いかけてくる。店主が長年の経験で編み出した独自のスパイス配合と絶妙な火入れの技術。これこそが、ただ辛いだけの中華とは一線を画す、圧倒的な完成度の秘密だ。一度この味を知ってしまうと、他の麻婆豆腐では満足できなくなるという中毒者が後を絶たない。