妊娠中の飲酒が赤ちゃんに致命的な影響を及ぼす疾患として、今日世界的に認知されているのが胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)である。この疾患の歴史的起源は、1968年にフランスの小児科医ポール・ルモワーヌ(Paul Lemoine)らが発表した症例報告に遡る。彼らはアルコール依存傾向にある母親から生まれた子供たちに、独特の顔貌的特徴や成長障害、精神発達の遅れが共通して見られることを初めて臨床的に指摘した。
現代の医学において、FASDは単なる外見上の特徴にとどまらない。成長に伴って顕在化する学習障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)に酷似した行動上の課題、さらには社会的適応の難しさまでを含む、極めて広範な中枢神経系の障害として定義されている。脳の神経ネットワークが構築される最も繊細な時期にアルコールが干渉することで、不可逆的な影響が残る危険性がある。このリスクを正しく理解することが、予防の第一歩となる。