『ノルウェイの森』の作中において、永沢という男は読者に強烈な眩暈(めまい)と陶酔を与えます。仙台の名士の家に生まれ、東京大学法学部に現役合格し、国家公務員上級試験(現在の総合職試験)を上位で突破して外務省へと入省するキャリアは、昭和後期の日本社会における頂点そのものです。
しかし、彼が放つ真の魅力は単なる学歴や肩書ではありません。周囲が学生運動の熱狂や怠惰な日常に流される中、彼は一人部屋にこもり、分厚い原書を読み耽り、完璧な日常管理と語学の習得に時間を捧げます。その妥協を許さないストイックな姿勢と、物事の本質を一瞬で見抜く怜悧な知性こそが、読者に「圧倒的にかっこいい」と畏怖される所以です。
2010年に公開されたトラン・アン・ユン監督の映画版『ノルウェイの森』では、実力派俳優の玉山鉄二が永沢役を演じました。原作から抜け出してきたかのような端正な容姿と、冷たい氷のような眼差しの奥に宿る虚無を見事に表現し、映画ファンの間でも「永沢の貴族的で危険な色気を完全に体現した名演」として今なお高い評価を集めています。