浅田真央のキャリアにおいて、最も世界に衝撃を与え、現在も語り継がれるプログラムは、メダルを逃した2014年ソチオリンピックのフリースケーティングでした。
金メダルの最有力候補として臨んだソチ五輪。しかし、ショートプログラムでまさかのジャンプ転倒が重なり、結果は16位(55.51点)。日本中が凍りつき、本人も「何が起きたのか分からない」と絶望の淵に突き落とされました。
しかし、翌日のフリーで浅田が見せたのは、スポーツの枠を超えた人間の魂の再生劇でした。ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』の重厚な旋律に乗せ、冒頭のトリプルアクセルを完璧に着氷。続くすべてのジャンプ要素を成功させ、ステップシークエンスでは全身全霊の感情を氷上に解き放ちました。
演技終了の瞬間、天を仰いで顔を覆い、あふれ出る涙を拭った浅田真央の姿に、現地ロシアの観客だけでなく、世界各国のメディアや競合国のコーチ陣までもが総立ちでスタンディングオベーションを贈りました。フリー単独では自己ベストとなる142.71点を叩き出し、総合6位まで猛追。メダルには届かなかったものの、米大手メディアのESPNやBBCなど海外報道各社は「メダルなき勝者」「五輪史に残る最も美しい復活劇」と絶賛しました。
結果としてのメダル以上に、挫折から立ち上がり自らの信じた難構成を滑りきった「人間の尊厳」が、世界中の人々の記憶に永遠に刻まれたのです。