「馬は人を乗せるだけの従順な動物」という古い固定観念は、近年の動物認知科学によって完全に覆されました。英国サセックス大学や国内の研究機関による実証実験では、馬が人間の顔写真を視覚的に識別し、笑顔と怒り顔を明確に区別して記憶する能力を持つことが証明されています。怒った表情の写真を見た馬は心拍数が上昇し、左目で注視する(危険刺激を処理する右脳を使う)傾向を示すなど、人間の感情の機微を瞬時に察知する防衛本能と社会性を備えています。
表情の豊かさも見逃せません。馬には人間(約27種類)に匹敵する17種類もの表情運動単位が存在し、鼻腔の広がり、口元の緩み、まぶたの緊張によって感情を表現します。特に感情のバロメーターとなるのが「耳の動き」です。
馬の耳は左右独立して180度回転し、音源の特定だけでなく心理状態をダイレクトに反映します。
- 前方をピンと向いている:強い興味や集中、好奇心を示しています。
- 左右バラバラに動く:周囲の環境音を警戒・情報収集している状態です。
- 横に垂れて力を抜いている:リラックス、あるいは休息・眠気を感じています。
- 後ろにペタッと倒れて頭骨に張り付く:強い怒り、恐怖、威嚇のサインです。噛みつきや蹴りの危険があるため、絶対に近づいてはいけません。
また、唇を大きくめくり上げて歯をむき出しにする「フレーメン反応」は、ネット上で「馬が笑っている」と誤解されがちですが、実際は上顎にある鋤鼻器(ヤコブソン器官)に新しい匂い分子を送り込み、フェロモンや未知の刺激を分析している生理現象です。
馬の平均寿命は一般的に25歳〜30歳前後(人間の年齢に換算すると80〜90代相当)とされています。適切な健康管理と獣医療の発展により、現代では35歳を超える長寿例も珍しくありません。幼年期から老年期まで、生涯を通じて高い社会性と記憶力を維持し続ける点が、馬という動物の際立った特徴です。