猿沢池は自然にできた池ではなく、天平21年(749年)に興福寺の「放生池(ほうじょうち)」として開削された人工池と伝えられています。放生池とは、仏教の不殺生戒に基づき、捕らえられた魚や鳥を放して功徳を積む宗教儀式「放生会」を執り行うための清浄な水場のことです。
興福寺の境内に隣接するこの池は、長きにわたり寺院の重要な宗教的舞台としての役割を果たしてきました。現在でも水辺を眺めると数多くのカメが石の上で甲羅干しをしている光景が見られますが、これもかつて人々が生類を池に放った風習の名残と深く関係しています。
歴史の荒波のなかで興福寺の建造物が焼失や再建を繰り返すなかでも、猿沢池は当時の姿をとどめ続け、人々の祈りと憩いの場として親しまれてきました。