平安時代の食事における庶民との違いを比較すると、皮肉にも身分の低い庶民の方が栄養学的にはるかに優れた食事をとっていたことがわかります。
貴族が「白米の強飯」を大量に消費していたのに対し、庶民の主食は玄米、ヒエ、アワ、大麦などの雑穀を混ぜて炊いた「姫飯(ひめいい=柔らかい粥状のご飯)」でした。雑穀や未精製の米には、ビタミンB群やミネラル、食物繊維が豊富に含まれており、これが意図せずして脚気や糖尿病を予防していました。
また、庶民は野山に自生する山菜や野草、近郊で収穫される新鮮な青菜を汁物に入れて日常的に摂取していました。肉類こそ口にできないものの、大豆製品や海藻類を巧みに取り入れ、過酷な肉体労働に耐えうる頑健な肉体を維持していたのです。「贅沢を極めた貴族が病に倒れ、粗食に耐えた庶民が栄養を補えていた」という逆転現象は、平安時代の食文化における最も興味深いパラドックスと言えます。